八ッ場ダム東京裁判「忌避」申立て 

8月7日(火)

先月25日の朝、市民ネットの市原市議だった岡村由美子さんが急逝した。
彼女とは同世代でもあり、互いに心を開いて話せる仲間だった。
かけがえのない存在を失い、日を追うごとにじわじわと悲しみが深まる。
そんな時でも手帳には連日予定がびっしり…。

先月末から8月第1週まで、来年度の予算要望に向けてのヒアリングで
大忙しだったが、おおかた終了し、これからは個別の検討に入る。
何しろ事業が膨大なので、ヒアリング項目を絞って進捗状況などを担当課
に尋ねるのだが、それでも朝から夕方までびっしりのスケジュール。
福祉、環境、まちづくり、子どもなど、県ネットにある7つの部会の
メンバーがヒアリングに参加し、毎年予算要望を提出している。
今年も職員の皆さんにご協力いただき、ありがとうございました!

しばらく県庁に通い詰めの毎日だったが、今日は東京高裁で開かれた
八ッ場ダム東京裁判の傍聴に駆けつけた。
6月6日の前回裁判から早2ヵ月が経ったが、今回は原告側が申請した
証人が二人採用され、証人調べが行われた。
午後1時に開廷し、嶋津暉之さんと関良基さんが宣誓文を読み上げ、
証言台に立った。
初めに、今日が大法廷デビューの島昭宏弁護士が嶋津さんの
証人尋問を担当。
嶋津さんから、東京都水道の水需要予測がいかに実績とかけ離れ、
過大見積もりをしているか、明快に証言を引き出していった。
実に分かりやすく論理的に東京都の水需要予測の不合理性、恣意性
を明らかにした。
40分ほどの尋問だったが、流れるようなストーリー展開は、
嶋津さんはじめ東京弁護団利水チームのまさに努力の結果。

続く関さんの証人尋問の担当は、我らが高橋弁護団長。
この裁判を通じて、治水のいろはから学ばれ、今やその道の専門家も
びっくりの見識を持つまでに至っている。
証人の関さんは新進気鋭の若手研究者。
治水計画を立てる上で基本となる洪水時の最大流量がいかに
実績からかい離し、過大になっているか、明らかにした。
基本高水というが、この洪水流量を大きく設定すれば、
それを軽減するためにダムが必要ということになる。

国交省は、昨年まで戦後最大のカスリーン台風並みの洪水が再来すると、
治水基準点である高崎市の八斗島(やったじま)地点では毎秒22000t
の流量が流れるとしていた。
その後、この22000tの検証を行い、21100tになるという新モデルを
発表し、日本学術会議にその妥当性について検証依頼した。
しかし、戦後のはげ山から回復してきた森林の保水力を全く評価せず、
無視した形で計算されている。
そこで、関さんが森林の保水力を実情に照らして正当に評価し、
洪水の最大流量を計算したところ、16600t程度になったとのこと。
国交省は洪水の再現計算式を明らかにせず、kとかpとかいう
パラメーターをいじって、ピーク流量が大きくなるように
設定している疑義がある。
また、日本学術会議は国交省の新モデルにお墨付きを与えたが、
その検証方法については「確立されたものではない」と自らが
認めている。
「同じ学者として恥ずかしい。誠意を疑わざるを得ない。」と
関さんは証言された。

極めて専門的な内容だったが、高橋弁護士の丁寧な尋問のおかげで
推理小説の謎解きのように、次々と不可解な事実が浮かび上がってきた。
関さんの尋問は約1時間で、時計は午後3時半。
開始から2時間半経過し、せまい傍聴席に座りっぱなしでいささか
エコノミー症候群状態…。

嶋津証人に対する被告東京都からの反対尋問は「ナシ」。
都の代理人橋本弁護士いわく「只今の証言は私なりに理解したが、
大前提が違っている。論争になるので、反対尋問はしない。」
とのことだが、意味不明???
嶋津さんに過大予測のからくりを論破されて、ぐうの音も出ないと
言ったところか?

関証人に対しては、専門用語の説明を求めたり、日本学術会議の
公開説明会に関する見解を求めるなど、これが反対尋問?と疑問に
感じる質問に終始した。
揚げ足取りの印象が強く、関さんに対する裁判所の心証を悪くする
ことを狙ったような質問ばかりで、姑息なやり方にうんざり…。
まあ、それもこれも真正面から闘うことのできない苦しさからか?

最後は行政の「裁量論」に逃げ込めるだろうとの安心感から、
法廷の最前列で堂々と居眠りをする被告席の都職員がいて、
びっくりするやら、あきれるやら。
他にもあくびばかりしている職員もいた。
緊張感もなく弛緩しきった姿に厳しい目を向けている都民の存在は
彼らには見えていないのだろうか?

原告側は裁判の判断材料になる事実を明らかにするために、
6月9日付で9名の証人申請をした。
そのうち嶋津さんと関さんは証人として採用され、残りの証人採用に
ついて、裁判長は必要性がないと「却下」の結論を下した。
そこで原告弁護団は10分間の休憩時間を要求し、今後の対応を協議。
再開後、大竹たかし裁判長に対して「忌避」の申立てを行った。
つまり「あなたの指揮訴訟の下では裁判は続けられません」と
「不信任」を言い渡したということ。
弁護団の予想が的中し、想定内での「忌避」申立てになったのだが、
これは伝家の宝刀であり、この先の見通しが明るいわけではない。
ただこのままでいけばじき結審し、行政の裁量の範囲で滅茶苦茶な
水需要予測がまかり通ることを回避したかったということ。
他県の裁判への影響も考えての苦渋の選択である。

長い裁判が終わって、弁護士会館で説明会
高橋弁護団長
マイクを持って説明する高橋弁護団長と東京弁護団の皆さん

若手チーム
左手マイクを持っているのが、森林政策学がご専門の関先生
右手がミュージシャンでもあるロックンロイヤーの島弁護士

皆さん、お疲れさまでした。
今後ともがんばりましょう!