平成30年12月議会 水道法改正案の廃止を求める意見書案の趣旨説明
市民ネット・社民・無所属会派 入江 晶子
発議案第20号水道法改正案の廃止を求める意見書について、提出会派として趣旨説明を行います。
先の臨時国会において、水道事業の民営化に道を開く水道法改正案が十分な審議も行われない中、強行採決されてしまいました。しかし、法改正により今日の水道事業が抱える多くの問題点を解決できる見通しは見えません。
現在、自治体の水道事業は、人口減少・水需要の頭打ちによる収入減、施設の老朽化、水道技術者の不足という三重苦に直面し、全国の約3割が赤字経営を余儀なくされています。そこで、政府は法改正の目的を水道事業の「経営基盤強化」とし、市町村の枠組みを超えた広域連携や官民連携の推進を掲げました。とりわけ民営化を促進するためのコンセッション方式の導入が目玉とされています。これに対し、「生活に直結するインフラを営利目的の民間企業に委ねていいのか」懸念する声が大きく、命の水を商品として扱うことへの抵抗感は国民に根強くあります。
コンセッション方式は、自治体が業者に仕様、実施方法を指示してコントロールする従来の業務委託と大きく異なります。自治体が水道事業の認可や施設を保有したまま20年~30年間の運営権を民間事業者に売却するやり方です。事業運営は民間に委ねますが、施設等のハード整備や災害時の対応は自治体との共同責任となる「上下分離型」となり、参入企業へのメリットはあっても、住民にとってのメリットはありません。
今年6月、政府は水道事業民営化に向け、PFI法(民間資金を活用した社会資本整備法)を成立させました。その内容は、上下水道や公共施設の運営権売却に際し必要とされた地方議会の議決を「不要」とし、さらに地方自治体の承認が必要だった料金改定についても企業側が通告するだけで「手続き完了」とみなすなど、地方議会の審議や関与を排除して上下水道事業の民間売却を決定し、運営企業が自由に料金を値上げすることができるようしたのです。議会や市民のコントロールが効かなくなることは、自治の根幹にかかわる大問題です。
しかも、民営化が進展すれば、海外から水メジャーと呼ばれる大手資本が日本に押し寄せる懸念もあります。今年4月から浜松市では下水道事業でコンセッション方式を導入しましたが、20年間契約の運営権を買い取ったのは、フランスのヴェオリアやオリックスなどの6社企業連合でした。
「社会的共通資本としての水」の著者である拓殖大学の関良基教授は、「水道民営化の悪夢」を論じ、「日本の水道民営化政策は周回遅れのトップランナー」と痛烈に批判しています。関教授によると、民営化による水質悪化や料金高騰が原因で欧米でも民営化を公営化に戻す「再公営化」の流れが顕著であり、「1984年に民営化されたパリでは30年間で水道料金は5倍近く値上がりし、2010年に再公営化された」とのこと。また、イギリスの調査機関の報告によると、水道再公営化は2000年から2015年の間で世界37か国235箇所に上るそうです。水道事業は地域独占の形にならざるをえず、住民にとって民営化のメリットはないことを証明しています。フランスやアメリカなどの水メジャーは、再公営化の流れにある欧米ではなく、日本の水市場に参入することを狙っているのです。
一方、国や県主導による広域化の弊害も指摘されています。すでに香川県や宮城県では安倍政権の成長戦略、公共部門の民間開放の流れの中で今回の水道法改正に先立ち、広域化・コンセッション化の計画が水面下で進められ、唐突ともいえる状態で議会提案されている実態も報告されています。香川県では2014年に県が広域化計画を発表、翌年には「法定協議会」の設立、今年から広域化がスタートしていますが、この間関係自治体において議会での十分な議論や住民合意が行われる余地はありませんでした。広域化により、各自治体が持つ自己水源の放棄と引き換えに余剰化したダム水利が押し付けられる流れがあり、それが今般の水道法改正でさらに強められる可能性が高まっています。
また、宮城県では上水・下水道・工業用水の一体化・官民連携が進められていますが、その発端となったのは、2016年に大手商社や大手水道事業者が参加して行われた非公開の「懇話会」でした。議会は蚊帳の外で、その2年後には、条例制定や民間事業者選定の実施スケジュールが作られています。宮城県の「上下工水一体官民連携」の対象となっている地域では、過剰な水需要予測とそれに基づく無駄な水源開発の投資が現在の経営悪化を招いたことが明らかにされています。
一方、水道料金格差の問題もありますが、水源の選択、施設整備のあり方や広域化の判断を含め、地域の実情に応じた水道事業を持続的に運営していくのは自治体であり、それを判断、決定するのは住民であり、議会です。国や県のトップダウンで進めることは、自治体の「命の水の自治」を奪いかねません。
新潟や福井県議会では水道法改正案に反や慎重審議を求める意見書に対し、自民党も賛成し、可決しています。その背景には、私たちの命や暮らし、生存権に関わる水道事業を民間任せにはできないという多くの国民世論があると思われます。
最後に、千葉県議会においても、本意見書に対するご賛同を重ねてお願い申し上げ、趣旨説明を終わります。